花鳥諷詠心得帖33 三、表現のいろいろ-8- 「切字(や)」

さて具体例を挙げながら「切れ字」について考えてみよう。

そこで材料は、再び『五百句』。
前に触れたかも知れないが、虚子の代表句の多くが収録され、さらに明治期の作品が一二八句、
大正期が一六一句、昭和(十年まで)が二一一句、と大凡バランスがとれていることも、
数値的な比較をし易く、便利である。
ーやー
俳句のことを俗に「やかな」などと言う人も有るくらい代表的な「切れ字」である。
前回も書いたように、古来いろいろな「や」が分析されているが、『五百句』では大きく分けて
三つのパターンに分類出来る。
つまり現れる場所によって、a、上五の「や」。b、中七の「や」。c、その他の「や」。

上五の「や」には、
鶯や文字も知らずに歌心 虚子
春風や闘志いだきて丘に立つ 々
やり羽子や油のやうな京言葉 々
など堂々たる虚子の代表句が多い。
句数は明治期が一五。大正が一二。昭和(十年まで)が一七。
比率的には明治が全体の一二パーセント、大正と昭和がそれぞれ八パーセントで、
若干明治期に多い傾向も見られるが、大きな違いではない。

続いて中七の「や」には、
ほろほろと泣き合ふ尼や山葵漬 虚子
一つ根に離れ浮く葉や春の水 々
炎天の空美しや高野山 々
などの作品が見られるが、各期の句数と頻出度は以下の如くだ。
明治期、二三句、一八パーセント
大正期、一四句、 八パーセント
昭和期、二一句、一〇パーセント
となる。
明治期が突出して多いことが判るし、前出の上五の「や」の傾向と合わせ考えると、
「や」については大正期以後減少傾向にあることが、少なくとも『五百句』中では言えることになりそうだ。

その他の「や」というのは、
美しき人や蚕飼の玉襷    虚子
山吹の雨や双親堂にあり    々
うなり落つ蜂や大地を怒り這ふ 々
の類であるが、数値的には明治期に三句、大正期に三句、昭和期に一句と問題にはならない。
ただし全七句の内六句までが、中七の第三音節が「や」になる点、特徴的で虚子句のリズム感を探る
有力な手がかりになるのかも知れない。
最も代表的な「や」が現代我々の周辺ではどう使われているのか、次回はその辺りも探って見たい。