ちぬ釣つて而して椀の鯛の鯛 青木百舌鳥(2012年1月号)

季題は「ちぬ」。「黒鯛」の傍題である。釣りマニアには一年を通じての狙い魚であるが、一般的には夏の、なかでも夜釣りが納涼をかねて楽しまれている。悪食で有名で、海老・蟹類から、ゴカイ、イソメ。さらには蚕の蛹、地方によっては西瓜などを餌にして釣ることもある。

掲出句は「ちぬ釣つて」というのであるから、作者自身で釣りをして。「而して」というのであるから、自身で料理をした、というところが解釈の勘所となろう。「鯛の鯛」はご存知の方も多いだろうが、魚の頭の中にある「骨」、厳密には肩胛骨の辺りの骨で、胸鰭を動かすときに使う。その形状が「魚」の形をしているので、「鯛の中の鯛」という意味から「鯛の鯛」として面白がられている。さらに「鯛の鯛」が食べ手にそれと判るには、「吸い物」が相応しく、その点「椀の」の措辞は周到である。

昼間は釣り三昧に耽り、夜には自ら包丁で刺身、焼き物、椀種と「ちぬ」を捌いた作者の得意顔まで眼に浮かぶ。