町田優第零句集『いらっしゃい』を読む_稲垣秀俊

第零句集4号は町田優人さん(俳号 優)の『いらつしゃい』。町田さんは昭和62年、大学の一般教養で本井氏に出会い、その縁で俳句の世界に入られた。夏潮には平成19年から参加されている。

町田さんの俳句には底知れない不思議な感じがあり、その一部は音の操作に由来するものではないかと私は考える。以下に挙げるように、『いらつしゃい』には音量を絞ったように感じられる句がよく見られる。

              竜胆を一輪毎の喫茶店

              暑きこと京成の景屋根ばかり

              遠足のすぎて鎖場残りけり

              初空に敷き広げたる都会かな

              秋出水納屋に農具の下がりけり

これらの句は視点を工夫して、あるいは音のフェードアウトを用いて音の情報をカットし、読者の注意を季題に誘導しながら視覚的な印象を強めることに成功している。このような視覚情報と聴覚情報の制御が、独特な雰囲気をかもし出す装置の一つとなっているのではないだろうか。

一方で、音の操作に関係なく独自の世界を見せる句も多い。ここでは次の三句をとりあげる。

              いらつしゃいまたいらつしゃい芒原

季題は芒。生い茂った芒が風に吹かれる様子を、別れを惜しんで手を振っているかのように描写している。「いらつしゃい」という言葉の持つ暖かみが、やさしげな葉ずれの音や、芒原の日当たりの良さまでも想像させる。

              鰯雲裏山を越え来たりけり

季題は鰯雲。すっきりと晴れた空を見上げると、裏山の向こうから鰯雲が近づいてくる。すっかり秋である。出来事としてはそれだけだが、生活空間である裏山を配することで、季節の移り変わりに親しみを感じさせる。

              腹立てているかも知れずサングラス

季題はサングラス。口元から感情を推測できないという事から、相手はあまり親しくない人だと考えられる。サングラスのせいで表情が読めないのはよくあることだが、そこをなんとか推測しようとするところに可笑しみがある。

 

 

稲垣秀俊 記

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