花鳥諷詠心得帖15 二、ことばの約束 -7- 「仮名遣いの話(ハ行点呼音)」

「現代かなづかい」原則第一類、第四項。

ワ、イ、ウ、エ、オに発音される旧かなづかいの「は」、「ひ」、「ふ」、「へ」、「ほ」は
今後「わ」、「い」、「う」、「え」、「お」と書く。
ただし、助詞「は」、「へ」はもとのままに書く事を本則とする。

「川」かは→カワ、「鯛」たひ→タイ、「氷」こほり→コオリ、の類。
所謂「ハ行点呼音」の問題である。

つまり日本語はかなり早い段階(平安時代には既に)から、この問題を抱えており、
永い間知識として、つまり「正書法」としてこの仮名遣いを守って来た。

名詞の場合などは漢字で表記してしまえば、ハ行点呼音という意識すら持たずに、事は済んでしまうが、
例えばハ行の動詞などでは、活用語尾の部分に、その知識が要求される。
例えば、「笑ふ」という動詞の活用は「ワラワ・ズ」、「ワライ・タリ」、「ワラウ。」、「ワラウ・トキ」、「ワラエ・ドモ」、
「ワラエ!」と発音しながら、「笑は・ず」、「笑ひ・たり」、「笑ふ。」、「笑ふ・時」、「笑へ・ども」、「笑へ!」と
表記する。
「新仮名」で育てられてしまった筆者などが、まず初めに「旧仮名」らしい表記に出会うのは、この辺りで、
はなはだ印象的なところだ。

ところが、ここに「落とし穴」が一つ。
それは「笑ひて」という連用形が「ウ音便」をして、「ワロウテ」と発音する場合。
正しくは「笑うて」と「ウ音便」で表記すべきところ、ハ行点呼音の「気分」が頭から離れない為に、
「笑ふて」と表記してしまうことが、ままある。

原則第一類、第五項。
「オ」に発音される旧かなづかいの「ふ」は今後、「お」と書く。
「葵」あふひ→あおい、「煽る」あふる→あおる、
「倒す」たふす→たおす

何回も言うが、漢字で書いている分には、何の問題もなかった部分に、
仮名で書くと難しい問題が潜んでいる。
「あふひ」など戦前のホトトギスで活躍した、本田あふひ女史がおられるから、我々には親しい気分がするが、
そうでないと一寸自信はない。

原則第二類、第一項
「ゆ」の長音は「ゆう」と書く。
「夕方」ゆふがた→ゆうがた
「友人」いうじん→ゆうじん
ただし、「言ふ」は「いう」と書き「ゆう」とは書かない。 

長音の表記は仮名遣いで問題の多い処だ。所謂長音符「ー」は、「タクシー」「スポーツ」といった
カタカナ表記の場合にのみ使用される。
さて実際の俳句作品で長音符「ー」使用の可能性如何に。