花鳥諷詠心得帖11 二、ことばの約束 -3- 「仮名遣いの話(正書法)」

 



所謂「俳句指導者」達の間で交わされる「文語」・「口語」に関する話題は
「仮名遣い」のことである場合が多い。
「仮名遣い」とは正に読んで字の如く、「仮名」の「遣い方」。
どこの言葉にも、それらを文字化する場合のお約束、「正書法」(ORTHOGRAPHIE ) がある。

分かり易く英語を例にとれば、「ワン」という発音で表される言葉には名詞の「一」の意味と、
動詞の「勝った」の意味がある。
そこで「お約束」として「ONE」と綴れば「一」の謂い、「WON」と綴れば「勝った」の意味にしている。
その間に合理的な必然性はなく、昔からみんなで「そうしている」のが最大の理由である。
つまり正書法とはそうしたもので、永年の習慣を守るところに意味がある。

ところで現在の日本語では所謂「新かな」が正書法にあたる。
昭和二十一年の内閣告示「現代かなづかい」だ。
「現代かなづかい」はその「まえがき」にこう言う。
一、このかなづかいは、大体、現代語音にものづいて、
現代語をかなで書きあらわす場合の準則を示したものである。
一、このかなづかいは、主として現代文のうち口語体のものに適用する。
一、原文のかなづかいによる必要のあるもの、
またはこれを変更しがたいものは除く。
内閣告示とはそうしたものなのかもしれないが、どこといって問題点のない、
寛容な取り決めの如く見える「まえがき」である。

「現代語」を仮名で書き表す場合の基準であって、漢字で書く時や、文語体は何の制約も受けないわけだ。
しかもご丁寧に「変更しがたいものは除く」と書いてある。ところがご承知のように、
他方の「当用漢字」の制限と相俟って戦後国語政策に重大な禍根を残すこととなる。

そんな難しい話は置いておいて、「現代かなづかい」をおさらいしながら、一方の「歴史的仮名遣ひ」を点検していってみよう。
「現代かなづかい」原則第一類。
「旧かなづかい」の「ゐ」、「ゑ」、「を」は今後「い」、「え」、「お」と書く。
ただし助詞「を」はもとのままとする。

「現代かなづかい」を貫く最大の趣旨は「一字一音」、「一音一字」である。この第一類では、
本来「ワ行音」として独立していた「音韻」(従ってワ行の文字で書き表していた)が
歴史の流れの中で「ア行音」に吸収され、同じ「音」になっているのに「ワ行の文字」と「ア行の文字」で
書き分けられている状態の解消が目的となっている。
具体例は次回に。 (つづく)