花鳥諷詠心得帖5 一、用意の品 -5ー 「辞書」

俳句会は学校の「書取り」の試験ではないから、判らない漢字や、自信のない漢字は「辞書」を引いて正しく書けば良い訳だ。また意味についても、おぼろげなものは、確認の為にも、やはり辞書にあたって見るべきであろう。そこで俳句会、吟行会に相応しい辞書について考えてみる。

まず必須条件として携帯に便利でなければならない。私は何時の頃からか三省堂の『新明解国語辞典』を愛用している。そもそもの付き合いが、中学に入学して初めて自分の為に買ってもらったのが、旧版の『明解国語辞典』だった。編者は金田一京助で、妙な名前もあるものだと思ったことを今でも覚えている。

三十年以上前のことになるが、国文科の学生時代には毎日『広辞苑』を持って通学して平気だった。近年は体力的にとても無理になってしまった。「新明解」は「明解」よりやや嵩ばるが、何とか現在でも持ち歩きに叶う。

二十年ほど前からだろうか、老眼向けに漢字だけ大きな活字で載っていて、意味は省略した「字書」の類が流行り始めた。「意味」が無いのは少々不安な気がしたが、作句に関連して辞書を使用すると言うことは、知らない言葉を引くわけではないのだから、意味はいらない訳だ。そう言えば江戸時代の軽便な字引である「節用集」がこのタイプだった。近年の発明では無かったのだ。この一、二年は「電子辞書」の真っ盛り。俳句会、締切直前の静寂を「ピッ、ピッ」という電子音が駆け回る。私は持っていないが、字が大きく画面に現れるので具合が良いそうだ。今や『広辞苑』が手のひらサイズになってしまった訳だ。

さて自分の家に帰って、他人の句集などを読む場合には、もう少し大型の辞書が有り難い。
一般的には『広辞苑』・『大辞林』あたりが手頃だが、もう少し沢山の言葉を調べたいとなると、昔は『大言海』・『大日本国語辞典』ということになった。近年では小学館の『日本国語大辞典』が収録語数が多い。用例などが丁寧で信用できるが、全二十冊というのは置く場所に困る。いよいよと言うときに図書館で利用すればいいだろう。

漢字については『大字典』あたりが適当かと思うが、折角だからという向きには諸橋轍次の『大漢和辞典』が世界的に見ても最高峰だ。何世代にも亘って利用出来るのだから少々高くても意味はある。もっと詳しくと言う方には白川静の『字統』・『字訓』・『字通』の三部作がお薦めだが、こうなると俳句より漢字の不思議の方に興味が行ってしまって困ったことになる。

虚子先生は『言海』をご愛用だったらしい。
水仙や表紙とれたる古言海   虚子