しなだしん句集『隼の胸』ふらんす堂
しなだしんさんの第二句集。ふらんす堂の「精鋭俳句叢書」として刊行。
しなださんは1962年新潟県柏崎市生まれ。1997年に「青山」に入会。2002年に「田」創立に参加、2006年まで同誌の編集長を務める。2008年に第一句集である『夜明』をふらんす堂より刊行。現在は、「青山」「田」の他に「OPUS」に所属。
氏は小諸の日盛俳句祭を初め、最近は渋谷での「深夜句会」にも積極的に出席頂いており、「夏潮」会員でも馴染みのある方だと思う。
大柄の身体を少し丸めつつシャイでありながら、己の俳論をしっかりと述べられる姿は大変印象的である。
集中の句の特徴として、「一本芯の通ったナイーブな叙情」が挙げられる。柔らかい叙情の世界を難しい言葉を使わず、効果的な暗喩で描き出されようとしているのではないか。また、仮名の多用もそういう効果を狙っているのだと思う。
類句類想を最も忌み嫌う氏の句であるので、句の出来の振幅は大きい。しかし、これだけの句を4年間の期間で句集としてまとめられているのは、氏の力のあることの証左であろう。
実際、氏は「日盛り祭」や「深夜句会」を初めとして、機会があればどこへでも顔を出し、句会に参加している。そのように句会の機会を通じて、氏は自分の句の精度を高めていっているのであろう。
・赤道を見てきし海月かもしれぬ しん
季題は「海月」。確か深夜句会で出されて句であったと記憶している。
非常に不思議な俳句。虚子の海月の句(「わだつみに物の命のくらげかな」)に繋がる雰囲気を持った俳句。「赤道」という火葬の点が妙に説得力を持って響いてくる。
ただの言葉遊びではなく、季題「海月」の様子が浮かんでくるので成功していると思う。
・しらがねの隼の胸まだ翔ばず しん
季題は「隼」。句集のタイトルにもなっている俳句。こちらは非常に皇室間を感じさせる俳句。隼の開かれた胸を「しろがね」と具体的に写生している点が良い。「翔ばず」の否定形であるが句のニュアンスは弱まらず、最後まで力強い一句になっているのは季題「隼」が持つイメージであり、「しろがね」でそれを引き出すことに成功している。
●Ⅰ
さくらからさくらへ鳥のうらがへる
紙漉の女のかほもながれけり
●Ⅱ
数へ日の母の瞳を聴いてをり
掛毛布死者の合掌もりあがり
三食を父とともにし三が日
●Ⅲ
海苔篊にしづかな雨のあつまれる
数へ日のひと日に母の忌日あり
●Ⅳ
うぐひすや名もなく川のはじまれる
夜を来る馬の輪郭星涼し
●Ⅴ
ぼうたんの内はどろどろかもしれぬ
アパートへ秋果の函を引きずり込む
●Ⅵ
雪しろやおなじ名前の山と川
間男のやうにテントを這ひ出しぬ
●Ⅶ
流氷のあをぞら割つてゆくごとし
密葬に来てほうたるに囲まるる
新宿にこぼす花野のきれつぱし
或るあしたすず虫ららと死にたまふ
●Ⅷ
くぢら見るやうにさくらを見てをりぬ
白濁の朝へ漕ぎだす蓮見舟
まつさらな目玉を掬ふ泉かな
(杉原 祐之記)
しなだしんさんのブログ「★しなだしんのスケッチブッ句★俳句日記」
http://blogs.yahoo.co.jp/hai_goshichigo
ふらんす堂オンラインショップ
http://furansudo.ocnk.net/product/1746
★本連載は、完全に私の趣味で鑑賞をしてしまっております。
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