第零句集2号は磯田和子さん。和子さんの略歴は、杉原祐之さんの鑑賞文と重複するので割愛し、早速句の話に移る。
氷水そっと匙引くこぼさぬやう
季題は「氷水」、かき氷である。露店などで購入すると、コップ形の容器に山盛り入っているため、はじめの一匙には神経を尖らせることになる。大雑把な人であれば全く問題にしない景だが、ここにスポットライトを当てるところに、作者の繊細さを感じる。
磯田さんの繊細な心を窺える句として、さらに次の2句を挙げる。
秋繭の籠れる部屋の薄明り
松虫草人に会ひたる心地して
本句集のタイトルは『花火』であり、掲載句のなかでこれを季題に用いたものは3句あるが、ここでは次の句を取りあげる。
続けざま揚がりて終ひ花火なる
「終ひ花火」という名詞化には賛否両論ありそうだが、花火大会の一際華やかなフィナーレを捉えた明朗な句だと思う。
他に10句を選び、以下に記す。
穴まどひ見しと父にも怖きもの
成人の日の立山と対峙せる
大作をかけ終へ蜘蛛の休むかな
運ばれて来ては囃され夏料理
薔薇の芽に棘に濃き赤通ひけり
青といふ色のひときは熱帯魚
残る雪一塊の行き止まり
朝霧の退きつつ雨は本降りに
十薬の花に明るき杉木立
パンジー植ゑ準備完了花時計
(稲垣秀俊 記)