要塞島 本井英
夜桜のひとゆらぎしてをさまりぬ 根治とは信ずることば花の下 旧上巳冷たき雨の止まぬまま 岬めざす車窓に雨の遅桜 ふる雨に木香薔薇の黄やはらか
タグボート溜まりへ春の雨つめた 野鳩せはしく鶯はのびやかに 鶯の近さや姿見まくほり 我が離れば鶯は嚠喨と 鶯の声やトンネル抜くる間も
砲座跡青木の花はみなこぼれ 島に生ひ島の地獄の釜の蓋 要塞の歩廊ちらちら藤散れる 岬風が空へ放つはつばくらめ 反転の燕すばやく翼閉ぢ
鵜の頚の鉤がつき出し春の潮 干潟より要塞島の崖仰ぐ 春濤へぶちかましては渡船来る 島うらら恙のことも少し聞き チューリップ一弁垂れて蕊まる見え