心経唱へ 本井英
ありたけの庭の水仙妻の墓に 風花や志賀の都と名は残り 絵画館の坊主頭に冬日ざし 背に浴びる冬日が味方闘病す アスファルト濡れてまつ黒雪さらに
病室の鏡にぞ雪降りしきる 雪片や綿のやうなるなも混じり 降る雪はヒマラヤ杉を染めはじむ 降りくらむ雪に一灯また一灯 真夜は雪止み一颯の風も無き
I氏より晩白柚の持ち重りせる志 今日干したばかりの大根ま輝き 岬山の眠れば浦曲まどろめる なまこ舟戻るとなればそそくさと 干潮に引かれし水脈の消ゆるまで
冬ざれてアロエもしどけなく撓み 獅子舞がロビーで舞ふも出湯の興 獅子舞の足袋の白さもはしけやし 目白らに遅れまじりて寒雀 著膨れて心経唱へくれをると