主宰近詠(2017年9月号)

自転車で 本井英

忍冬の蕾ぞ袋角に似たる

瀧道を出て夏雲に迎へらる

芍薬の蕾天窓ひらきけり

麦熟れて金といふ色したしめり

村潰えゆけば一面夏蕨




濁り鮒堅田夜話とてその昔

桟橋は板はづされて濁り鮒

夜が明けて見渡されたる出水かな

蟻地獄ごと手放せしわが家はも

緑蔭に放水銃のそれとなく




ぶつつりと胴を断たれて蛇乾く

市松に貼りて青芝雨が欲し

谷戸さらに深くあるらしほととぎす

ホスピスの夜の更けてゆくビールかな

稜線のにはかにひろし花あやめ




けふも降る閏五月の海の町

バスケットゴールが一基草茂る

虎の尾のおよそは同じ方へ尾を

屈託の極みの声を梅雨鴉

茅の輪くぐりて自転車で帰りゆく

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