雨月かな畳敷きなる中廊下  児玉和子

 季題は「雨月」。仲秋の名月が、雨で見られないことである。曇りの場合は「無月」、「雨月」も「無月」のうちである。「中廊下」は縁に面していない廊下。両側が部屋になっていて外からの光は届かない。普通は板敷きであるが高級旅館や料亭などでは「中廊下」にも畳が敷いてあることがある。

 料亭に一席設けて「月見の宴」をすることになっていたのであろう。ところが生憎の「雨」。雨の中を延着した作者は仲居に導かれながら、仲間の待つ部屋に向かう。楽しみにしていた名月を望むべくもないという残念もありながら、一方「雨月」には「雨月」の風情があるものよとも思って廊下を進んでいるのである。

 一句の味わいどころは上五。「雨月かな」と打ち出すことによって、今宵一夜の心構えが表され、宴の席に到着したおりの第一声まで聞こえてくる。表面的には地味な句ながら、背景には華やいだ気分が揺曳している。  (本井 英)

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