わたくしが真ん中夏の大三角  磯田和子

 季題は「夏の大三角」。虚子編『新歳時記』をはじめ、多くの歳時記類では未だ立項されていないようであるが、戦後のある時期から、一般に普及した言葉。夏の夜空の中天近くに揚がる三つの星座、「白鳥座」「鷲座」、「琴座」のそれぞれの一等星、「デネブ」、「アルタイル」、「ベガ」を結んで出来る三角形である。丁度「天の川」とも重なって、牽牛・織女の物語にも登場する星々である。どこかの高原とか海辺とか、見晴らしのいい場所にキャンプにでも行かれたのであろうか。夏の夜更けの天球を仰ぐと、誰の目にも明らかに、その三つの星がそれと判ったのである。その「三角」を目で追った作者は、自分が今、丁度その「真ん中」にいると感じたのである。

 そんなロマンチックな、若干の自己愛に支えられた幸せな時間が思われる。作者が女性であることに寄りかかって鑑賞すれば、家族のなかでの「真ん中」という幸福感が、こんな言葉を呼び起こしたのかもしれない。 (本井 英)

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