主宰近詠(2016年12月号)


山雀舎  本井 英



八寸や今宵雨月とさだまりて

句碑あれば訪ぬる一寺葛の花

執念くもまとはる秋蚊討ち果たす

子規庵に冷房がよく効いてゐし

霧の蓋かぶせたるまま河曲がる



延着を迎へに出づる夜霧かな

磯原を海原を霧雨おおふ

一位の実妣に逢ひたしとは誰も

早紅葉とも汐傷みとも丘襖

磯原にまぎれ込んだる穴まどひ



裏ありく蟻見えてをる黄蜀葵

井桁石を均しくあふれ水の秋

秋水に丹のあからさま弁財天

山雀舎訪ふ山雀のをりにけり

地へ還る蚯蚓の仔細見届けし



どれの木のどの枝となく薄紅葉

天牛の宙をゆく立ち姿かな

夏帽をキャッチャー被り子孫なく

秋雨や納屋に毎日よその猫

蛇坂のつき当たりたる葛の丘