季題は「竈馬」。虚子編『新歳時記』では、「イトド」としか訓まない扱いになっているが、他の歳時記類の多くが「カマドウマ」の訓みを採用しているので、掲出句の場合はそれに従う。
「味噌蔵」は味噌を貯蔵しておく蔵。毎年仕込んだ味噌樽が幾つも暗がりの中に静かに並んでいる。薄暗がりの引き戸を開けて、蔵に踏み込むと、目の馴れた蔵の中に「裸電球」がぶら下がっており、スイッチを捻るとそう明るくもない電球が「蔵」の壁を照らし出す。その照らされた壁に静かに留まって、影を曳いているのは「竈馬」であった。
「味噌蔵」全体を蔽う「匂い」、「薄暗さ」、「静かさ」が何十年を経てもまるで変わらない世界として、作者を迎えている。(本井 英)