林誠司句集『退屈王』文学の森
林誠司さんの第二句集。林さんは1965年東京都荒川区生。「河」で活躍し、2001年に刊行した第一句集『ブリッジ』(遊牧舎)で第25回俳人協会新人賞を受賞。
現在は無所属で、月刊「俳句界」編集長を務めている。
ご本人も「あとがき」で記されている通り、本句集は林さんの30歳代中盤から40歳代中盤までの自分史、呟きの集大成。
その間に父君の死、俳人協会新人賞の受賞、離婚、子供との月1回の再会、離職・転職、病気入院・・・ などなど激動の身の上を淡々と季題に託して詠いあげている。よって、私的過ぎて理解できない句も見られたが、繊細な表現で心打つ句もあった。
鑑みてみると私もそろそろ、この句集の冒頭部分の年齢に近くなってきたこともあり、今後の10年間どのようなことが起こるか、この句集を読みながら考えさせられた。
また、林さんは「失われた20年」の前の繁栄を成人として知る最後の世代。都市に住み壮年から中年に差し掛かるその世代の人々の「心の歌」として本句集を読んだ。
・大和路にまぼろしの鷹渡りけり 誠司
季題は「鷹」。
第三章は「まほろばの鷹」と言う題で、大和地方で詠まれた句が固まっている。
この章だけ、「私性」は薄れ、悠久のまほろばの地に自らを溶け込ませたように、風物・景物を詠いあげている。その中で、「鷹」は随所に出てくる。
この句は象徴的な一句。「まぼろしの鷹」と「まほろばの大和」が掛り合いイメージが広がっていくスケールの大きな一句となった。
・すぐ笑ふ子供と夏を惜しみけり 誠司
季題は「夏惜しむ」。
この句は、離婚後月1回の会見日に子供と遊んでいる様子だろう。その会見日は第4日曜日のような月末に設定されているのだろう。
「夏惜しむ」と言う季題は、現代では本来の意味で言う7月末~8月頭と、夏休みの果てを意味する8月末の二つの意味を含んでいる。この句の場合は後者であろう。
●「風来」
ジャンパーの汚れは海がつけにけり
まつしろな海坂これが晩夏光
しわくちやの離婚届よ冬芒
歯ぎしりの顔の出てゐる蒲団かな(長男)
●「ヨコスカ」
子どもらは子どもと遊び桜貝
もう妻と呼べないひとの日焼顔(新潟へ 4句)
かたはらに吾子のをらざる遠花火
転職の汗のワイシャツ脱いでをり
お父さんの将来は冬かもめ冬かもめ(子に問はれて)
日焼して男臭さをもてあます
●「まほろばの鷹」
てぶらにてあゆむ峠や秋の風
おほかたの神を送りて夕焼けたり
倭国大乱羽とびちつて鷹の死す
修二会の火魂(たま)翔(た)つ空へかかげたり(東北太平洋沖地震の翌日)
涅槃図の大海のごとゆらぎけり
●「退屈王」
青嵐海いちまいをひるがへす
尻立ててゆくあをぞらの鬼やんま
愛されてゐてどつさりと九条葱
風光るところどころにレモンの木(伊予の国は蜜柑畑ばかりなれど)
海側のテラスにかけて遍路杖
父の日の風のネクタイ締めてをり
●「天上大風」
鷹渡る空にけがれのなかりけり
スタジアム越しの冬日をまのあたり
春の鷹おのが光をふりこぼす
原発のさびしからんと夏の月
「俳句界」編集部
http://editor.bungak.com/2011/09/post-173.html
林誠司さんのHP「林誠司 俳句オデッセイ」
http://blogs.yahoo.co.jp/seijihaiku/MYBLOG/guest.html
(杉原祐之 記)