死因刻む外人墓碑や青葉冷 前田なな(2011年9月号)

季題は「青葉」。「青葉冷」で立項する歳時記があるかも知れないが、私は知らない。「梅雨」に対して「梅雨寒」の季題がある如く、だんだん暖かくなる季節に、ぐんと冷えて、少々心細い気分になったりすることもある。そんなことを考え合わせると「若葉冷」という言葉にはある実感があると思う。

「外人墓碑」はやや窮した措辞にも見えるが、「外人墓地」にある墓碑と理解すべきであろう。その「外人墓碑」に、「名前」や「死亡年月日」のほかに「死因」が刻んであったというのだ。たとえば日本の墓に共通の要素といえば戒名であり、享年、俗名が彫られていることもある。中には「累代の墓」として扱われ、脇に小さな字で戒名、俗名、享年が刻まれるケースもある。むしろそれが多いかもしれない。

ところが眼前の「外人墓碑」には「死因」まで刻まれている。病死もあろうが不慮の事故、中には「殺された」などというのもありそうだ。本国を遠く離れ、外交や貿易を業として異国に滞在していた「外人」達。不安や怒りの中で命を落とした者も少なくないだろう。そんなことを作者は考えながら「墓碑」の前に佇んでいる。「青葉冷」のさぶさぶした感じと、緑青が噴いているであろう墓碑銘の色合いにも寂しさが漂う。(本井英)