磧にも轍にも 本井 英
昼顔や網小屋ひとつ轆轤ひとつ 青葉潮くつがへるなく湾に充ち ひいひやうと唄ふ磯鵯青葉潮 島茂るかな磯原のうちかこみ 初夏の軽やかさとはモーツアルト
ここらより川は急がず麦の秋 釣られきて猛る岩魚や腹黄なり 鼈の目鼻浮かびて水涼し 小判草色いたらねどそのかたち 村の背を走る用水杉落葉
軽トラがやつと通れる杉落葉 白牡丹ほぐれやすらふ朝かな 古鎌や蕗刈るほどにほとびゆく 母の日を待つたり待たれたりの頃 緑蔭に整列お弁当済めば
あぢさゐの白に一刷毛づつの青 逸るなき夏鶯の間合ひかな うちまじり茂れるものに吾亦紅 畔塗機で塗つて仕上げは鎌でする アカシアが散る磧にも轍にも