主宰近詠(2016年8月)


磧にも轍にも  本井 英

昼顔や網小屋ひとつ轆轤ひとつ

青葉潮くつがへるなく湾に充ち

ひいひやうと唄ふ磯鵯青葉潮

島茂るかな磯原のうちかこみ

初夏の軽やかさとはモーツアルト




ここらより川は急がず麦の秋

釣られきて猛る岩魚や腹黄なり

鼈の目鼻浮かびて水涼し

小判草色いたらねどそのかたち

村の背を走る用水杉落葉




軽トラがやつと通れる杉落葉

白牡丹ほぐれやすらふ朝かな

古鎌や蕗刈るほどにほとびゆく

母の日を待つたり待たれたりの頃

緑蔭に整列お弁当済めば




あぢさゐの白に一刷毛づつの青
 
逸るなき夏鶯の間合ひかな

うちまじり茂れるものに吾亦紅

畔塗機で塗つて仕上げは鎌でする

アカシアが散る磧にも轍にも