主宰近詠(2017年4月号)


右横書き   本井 英

初富士へ金烏傾きそめんとす

双六の折れ目に駒のころげけり

迎春と右横書きを掲げたる

なまはげの今年雪無き道を来る

なまはげの帰りゆくとき小さかりし




坊ごとに今日のお届け凍豆腐

寒椿落ちて氷にころがれる

ゆつくりとぶつかることも寒の鯉

釣りよせて少し抗ひ寒の鯉

寒鯉のふかく湛へしインク色




川風にことさら寒しふくらはぎ

海猫とならべば華奢に都鳥

寒天に消防ホース吊るし干し

川涸れて取水ホースの横たはり

探梅に熊鈴もがな径細り




尉鶲枝つかむとき裳裾派手

大屋根の寒の乾きの蕪懸魚(カブラゲギヨ)

日脚伸ぶ聖夜の星がまだ窓に

列柱の南都銀行日脚伸ぶ

陽石に紙垂めぐらせばあたたかし

主宰近詠(2017年3月号)


ほんわりと  本井 英

頸上下してゐし鴨の交りたる

見知りをれど名は知らぬなり日向ぼこ

御首級(ミシルシ)を埋めてまつる枯木山

山靴の泥をぬぐふに冬の草

旭光に霧氷ささやきそめにけり




蕎麦搔や十一宿は山の中

蕎麦搔に外湯めぐりの一休み

蕎麦搔や逃散などと物騒な

助炭白二畳台目(ニジヨウダイメ)のよろしさに

消閑にこころ尽くせば枇杷の花




冬帽子熊の耳つけ兎の耳つけ

しかすがに萎れ皇帝ダリアたり

乾ききりし銀杏黄葉や踏めば音

宝くじ売場著膨れならぬなく

著ぶくれてフラ教室の更衣室




著ぶくれて手庇をして老いけらし

遠目にはほんわりとあり花八手

島裏の畑も枯野にもどりたる

日のベンチ冬至の蠅が待つてゐし

大枯木かな皮めくれ枝よぢれ

主宰近詠(2017年2月号)


勤労感謝の日  本井英

烏瓜に双眼鏡のピント合ふ

厚物に出口入口無きごとく

観覧車黄葉へ降りてきて迅し

紅葉川の対岸ひろく貯木場

落ちつくし敷きつくしたる木の実かな




柊の花や門灯切れたまま

皇帝ダリア高きを以て貴しと

山越えて雨が来るころ蕎麦を刈る

お酉様お店持ちたるうれしさに

綿虫を摑まんとしてをるらしき




雪が来るよ雪が来るよと瀬の走る

京へもどる最終バスや時雨れつつ

サンライズ瀬戸小夜時雨くぐり抜け

藪茗荷の実とは淡水黒真珠

山茶花の散りちらかるといふばかり




わが息のおよぶ近さの冬桜

離陸機が冬霞より這ひ出でし

グエンさんコさん勤労感謝の日

寒禽の枝渡るあり攀づるあり

引き裂いて鷲の喰らへるもの真つ赤

主宰近詠(2017年1月号)


大くさめ  本井 英

とんばうやダム湖へ下る道は急

山襞を奥へ折れ込み湖の秋

破芭蕉新地に「やよい」のみ残り

青々と千両の実の少年期

十三夜近づく月の鎌青し




稲の香に充たされてをる出湯の闇

滑莧の茎の紅さも山のもの

山かたち闇に溶けたり濁酒

濁酒蒲柳の身たあ笑はせる

鬱然と真夜の山なみ鰻落つ




国名の変はりてさらに鰻落つ

志賀高原稽古会 八句

枯れきりて立つ竜胆の矜恃かな ひらひらと鮠くねくねと岩魚たり 虎杖の茎枝黒く枯れわたり 霜すこし置いて虎杖素つぱだか




ゲレンデの緩急どこも雪を待ち

蒟蒻の黄ばみちぢれてまだ掘らぬ

錦秋の山へ投げたり大くさめ

金剛の幾億粒へ霜ほどけ

団塊の世代の君ら小鳥撮る

主宰近詠(2016年12月号)


山雀舎  本井 英



八寸や今宵雨月とさだまりて

句碑あれば訪ぬる一寺葛の花

執念くもまとはる秋蚊討ち果たす

子規庵に冷房がよく効いてゐし

霧の蓋かぶせたるまま河曲がる



延着を迎へに出づる夜霧かな

磯原を海原を霧雨おおふ

一位の実妣に逢ひたしとは誰も

早紅葉とも汐傷みとも丘襖

磯原にまぎれ込んだる穴まどひ



裏ありく蟻見えてをる黄蜀葵

井桁石を均しくあふれ水の秋

秋水に丹のあからさま弁財天

山雀舎訪ふ山雀のをりにけり

地へ還る蚯蚓の仔細見届けし



どれの木のどの枝となく薄紅葉

天牛の宙をゆく立ち姿かな

夏帽をキャッチャー被り子孫なく

秋雨や納屋に毎日よその猫

蛇坂のつき当たりたる葛の丘