主宰近詠(2018年5月号)

一俳誌  本井英

雪しろや信濃を出でて信濃川

旧正のホ句を持ちより集ふなり

旧正を言祝ぎ集ふ一俳誌

旧正の濠のあなたの岡辺かな

旧正を暮れ方ちかく訪ひくるる




雨止みて外あたたかとナース言ふ

見舞ひくるる人無きままに日は永き

クレーンが遅日の空にまだ働く

文学碑麓にありて山を焼く

ドローンぞ野焼の空に音たかく




これ以上ひらくあたはず犬ふぐり

吾妹子の背中ぞ遠きつくつくし

海苔の潮充ちわたり日はさしわたり

海苔を干す香り一村領したり

若布干す小浜々々をたどり来し




朝寝またかりそめならず恙の身

点滴の外れて朝寝うまかつし

今朝も空碧しミモーザ黄を兆し

晩節へ踏み出す一歩木の芽風

手負ひの身ながら青きを踏まんいざ

主宰近詠(2018年4月号)

心経唱へ   本井英

ありたけの庭の水仙妻の墓に

風花や志賀の都と名は残り

絵画館の坊主頭に冬日ざし

背に浴びる冬日が味方闘病す

アスファルト濡れてまつ黒雪さらに




病室の鏡にぞ雪降りしきる

雪片や綿のやうなるなも混じり

降る雪はヒマラヤ杉を染めはじむ

降りくらむ雪に一灯また一灯

真夜は雪止み一颯の風も無き



    
I氏より
晩白柚の持ち重りせる志 今日干したばかりの大根ま輝き 岬山の眠れば浦曲まどろめる なまこ舟戻るとなればそそくさと 干潮に引かれし水脈の消ゆるまで




冬ざれてアロエもしどけなく撓み

獅子舞がロビーで舞ふも出湯の興

獅子舞の足袋の白さもはしけやし

目白らに遅れまじりて寒雀

著膨れて心経唱へくれをると

主宰近詠(2018年3月号)

銀世界     本井 英

石蕗の黄のゆつくり褪せてゆける日々

クリスマスソング水族館に充ち

サンタ帽かぶりてアシカショー司会

     

鈴ヶ森刑場跡

火炙台磔台と冬ざるる 酢茎買うて今井食堂にも寄りて




雁木うち全但バスの停留所

雁木みちへ有平棒は光蒔き

列車着けば雁木を人の通りけり

騎馬像を遠巻きにして雁木かな

雁木出はづれて橋あり銀世界




先住は俳僧とかや枯芭蕉

病室の窓東向き開戦日

帰り行く見舞ひの妻に日短

しやつくりも副作用とよ冬日和

クリスマスツリー点滅夜が明ける




カーテンと玻璃の間の聖樹かな

  

悼 崎山野梨壷さん

ノリさんにばつたり出逢ひさうな枯野 機関区のところどころの枯葎 水仙や引込み線はトンネルへ 去年今年身に病変を抱きながら

主宰近詠(2018年2月号)

崖の裾まで   本井 英

朝寒や介護タクシー待たせおき

十三夜もう始まつてをりにけり

 

京都 三句

冬立ちて市バスの色のやさしけれ 冬立つや絵馬にくろぐろ八咫烏 木の葉雨疎水等高線なぞり




京都清風荘 二句
お二階の窓ごとの冬紅葉かな 杣道に似せてしつらへ落葉積む 大根畑防潮堤の外側にも 大根の穴へ土塊こぼれけり 腕なげて鷹匠鷹を放ちけり




小春なる沼のかたちのまかがやき

水鳥の気配や蘆襖をへだて

曳き波が枯蘆を囁かせたる

細枝に細枝に冬桜かな

沖磯の奥宮もなほ神の留守




海桐の実はじけてくすみゆくばかり

酉の市ここの手締めは柝が入り

トンネルを抜けてこちらの冬紅葉

崖の裾まできつちりと冬耕す

大綿の浮いて大人し音もなく

主宰近詠(2018年1月号)

柿もいでくれもする   本井 英

山梨の(カス)口中にほの甘し

水仙の芽だち袴も行儀よく

鶺鴒や追ひ越しさうに追ひすがり

秋風に鷺の綿羽吹かれどほし

 

木曽三川

河の秋輪中(ワジユウ)浮かびし世々のこと




桑名城
戦はず開きたる城曼珠沙華 菊人形の手摺のにはか造りなる 菊人形の草摺ことに華やかに 灯を消せば菊人形の香ぞ満つる 老木にいたはしきまで新松子




胴の間に積む蛸壺に秋の雨

秋雨にA旗掲げて浮かびをり
「A旗」は潜水中の意の信号旗
ソウル清涼里
尼寺の尼柿もいでくれもする




 
慶州
いかのぼりを野分の空に放ちたる 山雀や一旦藪へ消えてまた 山雀の頰つぺたの薄汚れたる 初鴨のすべなく降られをるばかり